Malgré la nuit

Review of unpublished films in Japan.

アンドレイ・ズビャギンツェフ『ラブレス Нелюбовь / LOVELESS』

f:id:malgre_nuit:20170705115409j:plain
 前作『裁かれるは善人のみ』(2014年)から3年ぶりとなるアンドレイ・ズビャギンツェフの新作『ラブレス LOVELESS / нелюбовь』は、愛を喪失した夫婦の一人息子が失踪するという、ズビャギンツェフがこれまで一貫して描いてきた「家族の崩壊」を物語る悲劇。カンヌ国際映画祭での前評判も上々で楽しみにしていたものの、はっきり言って本作は期待外れだった。

初期の『父、帰る』(2003年)や『ヴェラの祈り』(2007年)がズビャギンツェフ的な主題である「家族の断絶」を殺風景な異空間に描くある種の寓話だったのに対し、本作では夫の職場やスーパーマーケットといった日常的な空間が繰り返される退屈さ(トイレの場面まである)。前作にもそのような傾向はあったものの、同作には巨大な鯨の骨が象徴する、人物を囲む異形の大地、あるいは街がバックグラウンドとして存在していた。多用されるスマートフォンもこの日常的なファクターの一つで、ズビャギンツェフがこのような説明的な画でしか物語れなくなってしまった事実にまず落胆した。

それ以上に、役者への演技の付け方がとにかく劣悪で、特に息子が失踪した後、その両親が乗る車のカーステレオからハードロックが流れ、妻が発狂する場面の凡庸さには目を覆いたくなる。両親の口論を物陰から聞いていた息子が涙を流す表情も露骨としか思えない。繊細さの欠片もない母の人物造形には辟易とする。

一応、その口論の場面で内側からのカッティングに徹することで人物の断絶を表現したり、反復される「扉を閉める」という行為が人物の拒絶を象徴するといった点は特筆できる。ズビャギンツェフ的な窓は、本作では車の車窓にも波及している。

後半の捜索隊がフレームインするショットは圧倒的で、彼らの着るオレンジ色のベストがズビャギンツェフ的な殺風景に映える。前述した日常的な空間が、息子が「階段を降りる」場面を境に、絶望的な殺風景に移行するのが本作の特徴的な構成。ただ、この殺風景も息子を呼ぶ叫び声が轟き、異形の不穏が無化される。終盤の廃墟のショット郡は見事で、『裁かれるは善人のみ』の破壊された家屋に通じるものがある。そして、トレーラーにもあった森林の中のあのショットは忘れ難い。

f:id:malgre_nuit:20170706120943j:plain

f:id:malgre_nuit:20170629200516j:imageズビャギンツェフは悲劇を物語っても「その先」は描こうとしない人で、『父、帰る』の父亡き後の兄弟の姿には、それがあったし、『ヴェラの祈り』は、円環構造による寓話性が見事だったけど、それ以降の3作は正直、映画祭向けに撮っていると勘繰ってしまいたくなる。特に本作の月並みなシリアスさは、近年の映画ではヌリ・ビルゲ・ジェイランの『雪の轍』(2014年)のような、賞を取りたい人の撮った映画に思えてならない