Malgré la nuit

Review of undiscovered films in Japan.

アンドレイ・ズビャギンツェフ『ラヴレス』

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 前作『裁かれるは善人のみ』(2014年)から3年ぶりとなるアンドレイ・ズビャギンツェフの新作『ラヴレス LOVELESS / нелюбовь』は、愛を喪失した夫婦の一人息子が失踪するという、ズビャギンツェフがこれまで一貫して描いてきた「家族の崩壊」を物語る悲劇。カンヌ国際映画祭での前評判も上々で楽しみにしていたものの、はっきり言って本作は期待外れだった。

初期の『父、帰る』(2003年)や『ヴェラの祈り』(2007年)がズビャギンツェフ的な主題である「家族の断絶」を殺風景な異空間に描くある種の寓話だったのに対し、本作では夫の職場やスーパーマーケットといった日常的な空間が繰り返される退屈さ。前作にもそのような傾向はあったものの、同作には巨大な鯨の骨が象徴する、人物を囲む異形の大地、あるいは街がバックグラウンドとして存在していた。多用されるスマートフォンもこの日常的なファクターの一つで、ズビャギンツェフがこのような説明的な画でしか物語れなくなってしまった事実にまず落胆した。

役者への演技の付け方も劣悪で、特に息子が失踪した後、その両親が乗る車のカーステレオからハードロックが流れ、妻が発狂する場面の凡庸さには目を覆いたくなる。

一応、二人以上の人物を同一カットに収めることを避けながら、会話シーンを内側からのカッティングに徹することで人物の断絶を表現したり、反復される「扉を閉める」という行為が人物の拒絶を象徴するといった点は特筆できる。ズビャギンツェフ的な窓は、本作では車の車窓にも波及している。

後半の捜索隊がフレームインするショットは圧倒的で、彼らの着るオレンジ色のベストがズビャギンツェフ的な殺風景に映える。前述した日常的な空間が、息子が「階段を降りる」場面を境に、絶望的な殺風景に移行するのが本作の特徴的な構成。ただ、この殺風景も息子を呼ぶ叫び声が轟き、異形の不穏が無化される。終盤の廃墟のショット郡は秀逸で、『裁かれるは善人のみ』の破壊された家屋に通じるものがある。そして、トレーラーにもあった森林の中のあのショットには説明不在の魅力がある。

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愛を喪失した夫婦や人物の失踪には、ミケランジェロ・アントニオーニの諸作を想起するものの、この月並みなシリアスさは、近年の映画ではヌリ・ビルゲ・ジェイランの『雪の轍』(2014年)を思い出すような、賞を取るためのものとさえ勘繰ってしまうほどの退屈さだった。